料理長、くまモンに出会う

熊本県には、クマがいない。もう県名を変えたほうがいいんじゃないかと思う。

冗談はさておき、クマがいないというのはホントらしい。絶滅のおそれがある野生動植物を記した県のレッドデータブックをみると、ツキノワグマという種は、熊本県どころか九州ではほとんど「絶滅」扱いになっている。

国内に野生棲息しているクマはヒグマとツキノワグマの2種類。ヒグマは北海道にしかいないことを考えると、本州以南のツキノワグマがいない地域には、すなわちどんなクマも棲息していないということになる。

熊本県がくまモンにご執心なのも理解できる。彼らにとってクマは、“捕獲対象”ではなく“保護対象”なのである。

一方で岩手県はどうだろう。ツキノワグマの生息地について、県内を5キロメートル四方のマス目で区切った棲息分布をみてみると、2003年時点ですでに86%のマス目が「棲息」を示す黒丸で埋められている。県内の山林であればどこでもクマと遭遇する可能性があり、市街地でも油断はできないというわけだ。遠く関西以西から岩手に来られる方々には、予備知識としてぜひとも知っておいてもらいたい。西和賀の人たちも、クマ出没のうわさには敏感である。

ところが、これがくまモンのような新種のクマになると、話は変わる。前回の記事で書いたように、やたらと対抗意識を燃やす人もいれば、そういった流行りのクマにはめっぽう疎いという人もいる。「山人」の料理長は後者のようで……。

ある日の夕食時、馴染みのお客様と会話をはじめた料理長は、そのお客様が持っていたクマのぬいぐるみに目をとめる。というより、目をとめざるを得なかった。

なんとそのぬいぐるみ、人の声を聞き取ってオウム返しをする。クマなのに。しかもけっこう再現度が高い。料理長は感動した。そのうえ、お客様からぬいぐるみを一晩貸してもらえることになった。

「山人」の夕食のおしながきは、絵もふくめて彼が手書きしている。昨晩そういうできごとがあったものだから、翌日のおしながきには、そのぬいぐるみをモデルにしたクマの絵が描き足されていた。料理長なりのコミュニケーションである。

つまりはそれがくまモンだったわけだが、本人はそうとは知らずに描いていたらしい。あとで知ってびっくり、まさか山男の自分が、こんなかたちで流行の最先端に乗っかることになるとは思ってもみなかったろう。

皮肉にもくまモンの流行は、ここ数年のクマ被害が増大した時期とかさなっている。深刻化する事態を受けてか、今シーズンは、県内のツキノワグマの捕獲上限数が前年度比で3割引き上げられ、327頭になった。およそ3千数百頭が棲息しているとされる岩手において、その約1割を間引く計算である。しかし、慢性的なハンター不足により達成の見込みは薄い。

動物たちの逆襲の時代がはじまっている。くまモンの流行は、そんな時代を象徴するメタファーのようにもみえる。

【参考】
熊本県庁「レッドデータブックくまもと2009」
*岩手日報十一月九日付け記事
日本哺乳類学界「岩手県のツキノワグマ保護管理に関わるモニタリング調査とその課題」

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