Ska vi fika?

バリスタの世界チャンピオンを何人も輩出している北欧では、コーヒーを飲む時間そのものが、日々の生活のなかに文化として織り込まれている。登山が大好きなノルウェー人は寒い山の上でもコーヒーを淹れるというし、フィンランドでは雇用契約書に「コーヒー休憩の時間」が明記される。

“Ska vi fika?”(コーヒーのまない?)を合言葉にしているのはスウェーデンである。fikaは、そのままスウェーデンのコーヒー文化を象徴する名詞でもある。

かつてはコーヒーも、アルコールと同じように国が飲用を禁じてきた飲み物のひとつだった。お酒が禁止された国やコーヒーハウスが閉鎖された国はめずらしくないが、歴史的にそのどちらも――お酒もコーヒーも禁止された国は、北欧のスウェーデンをのぞいては例がないように思う。

コミュニティとしてのカフェがつねに革命の中心地となってきたイギリスでは、おもに女性たちを中心としたコーヒー反対運動のあおりを受けて以後、紅茶の文化に転じた。一方スウェーデンでは、その女性たちが酔っ払って教会にくる、かたわらでは鐘突きの男が酔いつぶれているなんていう光景がそこかしこにあふれていた。伝統的な価値観を重んじる王国政府や当時の保守的な人々にとって、アルコールもコーヒーもありがたくない文化であったことは想像にたやすい。

それでも、どちらかといえばコーヒーのほうが許せると思ったのだろうか。スウェーデン人にとって、アルコールの存在が国際社会における泣きどころであることはいまでも変わらないが、コーヒーに関しては、時の政府が飲用を正式に認めて以降、近隣の北欧諸国とともに世界有数のコーヒー先進国になった。

そういう視点から見ると、遊び心あるデザインや素朴な生活様式から近年もてはやされている北欧スタイルというものに対して、ちがった感慨もわいてくる。いわば、抑圧されたものに対する反動形成としての文化が見える気がするのである。シンプルな家具や愛らしい雑貨はもちろん、原色を大胆にあしらったポップな刺繍やファッション、透明感あふれるジャズのおだやかなスウィング。

ウォッカをのんでジョークを交わしてひそかに笑い合うロシア人の気性も、「だー(Yes)」という共通語で分かちがたく結びついている東北人としては理解できる。だが、同じような厳しい自然のなかでも、お酒にたよらず機嫌よく生きてきたスウェーデン人の精神の脈流が、我々からするとちょっぴり羨ましくもある。雪どけの水が錦秋湖に満ちるこの時期、山人に流れるスウェディッシュ・ジャズの底流から、そんな哀愁を感じ取ってもらえるだろうか。

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