装いあらため初心に返る

おはようございますと、事務室に入ってくる女性スタッフたちの格好がいつもとちがう。英国の近衛兵が着ているようなレッドコートならぬ、西和賀の冬を象徴するような真っ白なホワイトコートである。4月3日、今日から制服が変わったのだ。

装いが心理にあたえる影響は大きい。ゆったりとした服装なら気持ちもゆったりするし、きっちりとした服装は心まできっちりさせる。山人は山人として、どのような制服が“山人的”なのかということを、宿のコンセプトに照らし合わせながら模索している最中である。

今回の衣装チェンジでは、いままで男性スタッフと一部の女性スタッフのみが着用していた制服に、ほかの女性スタッフもあわせていくかたちになった。彼女たちがこれまで着ていた制服は、春に入ってきた新人の女子スタッフたちに引き継がれることになる。

この日は、新入社員をむかえる入社式の日でもあった。緊張気味の新人5人を見守るようにして式に臨む先輩たちも、着慣れない制服をまとって、少し緊張を強いられている。自然と照れ笑いが浮かんでくる。

山人は、今年の春で開館5周年を数える。5周年にかぎらずアニバーサリーは毎年のようにやってくるけれど、5の倍数は階段の踊り場のようなもので、節目の感がより強い。しきりに“原点”という言葉が叫ばれるのも、こういうときである。

「今日、事務室に入っていくと、初心者マークのバッチが入った袋が置かれていて、ああ、新入社員が胸につけるんだべなーと思いながら、私もそれを自分の胸につけました。緊張して入社式に臨んだときっていうのは私にもあったし、ここにいるみんなにもありました」

のちの宴会の席で、料理長はそう語った。5周年の山人に、6度目の入社式。創立当初から関わっていた人たちからすれば、感慨もひとしおであろう。10年分の変化が1年でやってくるような時代に、こんな山奥の田舎で、規格外の宿を5年もやってこられたのだから。

長い道のなかばで、後ろを振り返らないという生き方をする人もある。それはそれでクールだが、たいていの場合そうはいかない。人は節目ごとに初心に返り、自分が何者なのかを思い出す。制服を一新することも、記章を胸に掲げることも、そうした個々人の内省を後押しする。“山人”とはなにか。自分はどういう人間で、なにができるのか。なにを大切にして、これからどうなっていきたいのか。

入社式から一週間がたった。新人スタッフは、少しずつ山人の空気に馴染みはじめている。制服をあたらしくした先輩スタッフたちも、照れが消えて、堂々とした振る舞いを見せている。そして料理長の胸には、ゴールドの名札の横に、いまでも初心者マークが光っている。

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