アンドロイドは山仕事の夢を見るか

長崎県佐世保市の巨大テーマパーク・ハウステンボスが今月オープンした「変なホテル」は、アンドロイド(ロボット)や再生エネルギーを用いてホテルの運営コストを下げ、低料金を実現するという実験的な宿泊施設だ。通称、「スマートホテル」とよばれる。

そこでは、それぞれの役割に最適化されたロボットたちがサービスの現場に立つ。チェックインはフロントデスクの女性アンドロイドの音声案内にしたがい、荷物は自立走行するロボットが部屋まで届けてくれる。徹底したシングルタスクによる、究極の効率と生産性の実現である。

「変なホテル」という施設名が示すように、いまはまだ未来を感じさせる興味深い一例にすぎない。だが企業側からすれば、今後いっそう深刻化するサービス現場の人手不足を、半永久的に補ってくれる存在がようやく現れつつあるという話でもある。世界中のホテルワーカーにとってこれは何を意味するだろうか。

スマートホテルの登場が不意打ちのように感じられるのは、サービスの複雑な現場はロボットに置き換えられない最後の砦だと思われていたのに、もはやそうではなくなってきたということが、実用レベルで示されてしまったからだ。今後、変化に対応できない、もしくは変化する必要がない現場からは確実に人が減らされ、自動化されたプログラムやアンドロイドに置き換えられていく。そんな時代に、私たちは機械に対する優位性をどのように獲得していけばいいのか。

山人の仕事はマルチタスクを標榜し、一日のあいだに幅広い業務を横断していく。特性によって最適化された人員配置もある程度は必要だが、ホールスタッフは社内の血流となり、清掃、案内、配膳、情報提供、設備管理、事務、会計にいたるまで、お客様がチェックインしてからお帰りになるまでの多くの業務を持ち回りで引き受ける。小さな旅館なら当たり前のようにやっていることでも、高度に分業化された現代社会の基準からすると、十分な七変化である。これがスタッフを機械的ルーチンワークから遠ざけ、なにより、お客様に寄り添ったサービスの提供を可能にする。

山へ逃げこんでも機械との競争から逃げられるわけではないが、山に対応できるということは、変化するあらゆる状況に対応できるということでもある。山仕事の達人という意味をもつ「山人」のスタッフが、スペシャルであることよりゼネラルであることを求められるのは、図らずも比喩的だ。全体を俯瞰する能力やそこから生まれる柔軟さが、そのまま、最高のサービスとそうでないサービスとのちがいを生む。

アンドロイドは敵ではない。スマートホテルが示した新しい時代のホスピタリティは、私たちみずからに問い直す機会をあたえてくれているのだ。もしアンドロイドが、四肢と五感を自在に駆使してマルチタスクをこなせるようになったら? 高度な感情表現や共感能力を備えたとしたら?

アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックは、進化したアンドロイドが人間以上に人間らしくふるまう世界でとまどう男の物語を、半世紀も前に書いている。のちに作品は「ブレードランナー」というタイトルで映画化された。公開から30年以上たったいま、SF映画の金字塔として不動の地位を得ている。しかも、この作品は続編の制作が決まっていて、この夏に撮影を開始するという。時代が作品に追いつこうとしている。

予測し得ない未来のことだからといって、それを考えなくていい理由にはならない。自分たちの仕事の意味、生みだす価値、社会への影響。自分には何ができて、どういう意識があって、どこへ向かっていくのか。それを問い続け、絶えず進化していかなければならないのは、山人も同じである。

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