ウサギの旅、カメの旅

旅や旅行と一言で言っても、そのスタイルは人によって様々。

卒業記念旅行、ビジネス旅行、一人になって何かを見つめ直す旅、大切な人に会いに行くための旅。旅行先で何をするのかも人によって千差万別。そこでしか食べられないものを食べる、有名な建築を見に行く、その土地ならではの物を買いに行く。

新幹線で一気に目的地まで行く人もいれば、費用を抑えるためにヒッチハイクをする人もいるだろう。中には決まった目的地すら無く、ただ心の赴くままに何年も旅を続ける人もいる。方法は違えど、全てがその人にとっての旅である。

旅をしたくなるきっかけは普段の何気ない一場面に潜んでいる。

青空に浮かんだ雲が風にのって流れている。早朝や夕暮れ時に30°横から差し込んで来る光が7月のパリの光に似ている。お祭りの後、道路にこぼれたモーターオイルの香りが韓国の屋台のそれと同じ匂いを発している。急に納豆が食べたくなった、茨城へ行こう。

しかし旅をしようと決めた瞬間、2つの壁が私の前に立ちはだかる。時間と費用の2大巨塔だ。やり方にもよるだろうが、速さを求めるとお金がかかる。反対に予算を削ると時間がかかる。いつかは優雅な旅がしたいと思う。新幹線や飛行機を使って短時間で目的地へ行き、良いホテルに泊まり、ゆったりとした時間を過ごす。気の赴くままにカフェに入り、休憩。夜はオシャレをしてレストランへ。

ところが問題は、私がそれに見合う“大人”になっていないことだ。

もっぱら私の旅のスタイルはこうである。一人旅、時間はかかっても費用は最小限に、朝から晩までとにかく予定を詰め込む。時間のロスをなくするために事前に駅構内や空港など全て調べておき、予約できるものは予約しておく。ネットを駆使して交通機関を調べあげ、料金、所要時間、乗り継ぎのしやすさを考慮しながら全てを組み上げていくのだ。もちろんもっと簡単な方法もある。だがパズルのように一から自分で組み上げ、一見不可能にも近い目標の予算内に収まった時の快感は私にとって旅の醍醐味の一つなのだ。

旅行中はもはやスタンプラリー状態。目的地に着き、写真を撮る。お目当ての店に行き、他のものには目もくれず、前から決めていた物を食べる。予定していた時間を過ぎたらさあ大変。どこを削るべきか、予定表とにらめっこが始まる。移動には何分かかったか、見学に必要な時間は何時間かを全てメモしておき、今後の参考にする。簡易的な地図であれば、自分で建物を書き足し、川の流れる方向も矢印で記す。

自分でも一体何が目的なのかわからなくなる時がある。でも良いのだ。旅の正しいやり方なんて存在しないのだから。

山人にいらっしゃるお客様も皆それぞれ目的がある。泊まることが目的の人、イベントに参加するついでに滞在する人、雪が見たくて来る人。だが山人に来た時には私のように目的のみにとらわれず、どうか色んなところに目を向けてほしい。

晴れた朝、中庭の木陰に椅子を置いて食後のコーヒーを飲んでみる。部屋の照明を少し落としてスウェーデンジャズをかけてみる。ふたりで一寸に入りながら普段できない会話をしてみる。気になっていた宮沢賢治の作品を読み耽ってみる。少し早起きして散歩をしてみる。ただし熊には注意。昨日はいなかった動物が顔を出したり、見たこともない食材が出てくることもあるだろう。新たな発見をして、豊かな人生経験の一つに山人での出来事を加えていただきたい。そして何か素敵なことを発見した時には、私を含めまだまだ若い山人スタッフに「こんなことがあったよ」と教えていただきたい。それが私たち山人スタッフの経験となり、新鮮な日常になるはずだから。

佐藤 友代
岩手県紫波町出身。西和賀に住んで2年目。好きな季節は夏。
旅の楽しみは食べ物。動物がいると気をとられる。

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